概要
カルボン酸ビニルは、酢酸に代表される各種のカルボン酸にビニル基をエステルとして導入したものです。
代表は弊社の主要製品である酢酸ビニル(VAM)ですが、酢酸の代わりに原料としていろいろなカルボン酸を使うことで、原料酸に対応したカルボン酸ビニルができます。例えば、酪酸を使えば酪酸ビニルが、ラウリン酸を使えばラウリン酸ビニルができます。
当社の開発したカルボン酸ビニル合成法は、従来法で用いられていた水銀触媒を一切使用しない、純度の高い製品が得られる、優れた方法です。
当社では、様々な種類のカルボン酸ビニルをラインナップしております。
詳細は製品リストをご覧下さい。
カルボン酸ビニルの用途
酢酸ビニル以外のカルボン酸ビニルは、現在は酢酸ビニルほど大量に使われているものではありませんが、その構造の多様さから無限の可能性を秘めていると言えるでしょう。
そんなカルボン酸ビニルの用途を、ごく一部ですがご紹介します。
樹脂の柔軟性(Tg)、その他の物性の制御(共重合モノマーとして使う)
高分子を合成する時、1種類のモノマーのみで製品にすることはそれほど多くなく、様々なモノマーを共重合して、樹脂の堅さや溶剤への溶解性などの物性を求める性質に近づけるのが普通です。
カルボン酸ビニルは、このような改質モノマーとして非常に有用なものです。
例えば、ピバリン酸ビニルを単独で重合したポリマーは、透明な堅い樹脂(Tg:86℃)が得られます。このような「堅い」ポリマーを作るようなモノマーを共重合することで、温度を上げても軟らかくなりにくい樹脂を得ることができます。
逆に、ラウリン酸ビニルのような直鎖脂肪族のカルボン酸ビニルからは、常温でも流動性のある樹脂が得られます。このような「軟らかい」ポリマーを作るようなモノマーを共重合することで、温度を上げなくても軟らかい「内部可塑化された」樹脂を得ることができます。
(Tg:Grass Transition Temperature)・・・ガラス転移温度ともいい、高分子物質がガラス状の堅い状態から柔軟性のある状態に変わる時の温度。
この他にも、溶剤への溶解性のコントロール、顔料の分散性の向上、架橋部位の付与などの目的で、共重合による樹脂改質が行なわれる場合があります。
官能基を持つカルボン酸ビニルを架橋サイトとして使う
例:アクリルゴムの架橋サイトモノマー
モノクロロ酢酸ビニルは活性な塩素原子を持っているので、その塩素原子の反応性を利用する反応が期待できます。
例として、アクリルゴムの架橋サイト(架橋剤と反応する部分)として使用されている例をご紹介します。
アクリルゴムは耐熱・耐油性に優れたゴムで、主として自動車のエンジンルーム内の部品など、高い耐熱性と耐油性を共に要求されるような部分に使われている素材です。
各種のアクリル酸エステルモノマーと共に、数%のモノクロロ酢酸ビニル(図中の水色部分)を共重合します。
そこにアミン系などの架橋剤を使用することで、すばやく架橋を行なうことができます。
モノクロロ酢酸ビニルは脱離基となる塩素原子の活性が大きいため、同じような塩素系ビニルモノマーである2-クロロエチルビニルエーテル等を使用した場合に比べて架橋の進行が非常に早く、二次加硫が不要になる場合もあります。
カルボン酸ビニルエステル 製品リスト
構造式 | CAS No. | 融点 (℃) |
沸点 (℃/mmHg) |
引火点 (℃) |
比重 (g/ml、(℃)) |
ポリマーTg (℃) |
|
酢酸ビニル |
CH3COO-CH=CH2 |
108-05-4 | -96.5 | 72.7/760 | -5.0 | 0.9342(20) | 28 |
ピバリン酸ビニル | (CH3)3CCOO-CH=CH2 | 3377-92-2 | -82 | 111/760 | 14.5 | 0.8709(20) | 86 |
モノクロロ酢酸ビニル | Cl-CH2COO-CH=CH2 | 2549-51-1 | -34 | 136/760 | 51.0 | 1.1940(20) | 35 |
クロトン酸ビニル |
CH3CH=CHCOO-CH=CH2 |
14861-06-4 | -60 | 132.7/760 | 32.0 | 0.9410(20) |
プロピオン酸ビニル | CH3CH2COO-CH=CH2 | 105-38-4 | -80 | 90/760 | 4.5 | 0.9170(20) | |
酪酸ビニル | CH3(CH2)2COO-CH=CH2 | 123-20-6 | -80 | 116.7/760 | 19.5 | 0.9002(20) | -5 |
カプロン酸ビニル | CH3(CH2)4COO-CH=CH2 | 3050-69-9 | -52 | 166/760 | 51.0 | 0.8870(20) | -20 |
カプリル酸ビニル | CH3(CH2)6COO-CH=CH2 | 818-44-0 | -31 | 90/15 | 75.0 | 0.8803(20) | |
カプリン酸ビニル | CH3(CH2)8COO-CH=CH2 | 4704-31-8 | -9.5 | 148/50 | 106 | 0.8752(20) | -60 |
ラウリン酸ビニル | CH3(CH2)10COO-CH=CH2 | 2146-71-6 | 6 | 123/4 | 136 | 0.8721(20) | -75 |
パルミチン酸ビニル | CH3(CH2)14COO-CH=CH2 | 693-38-9 | 26 | 165/2 | 176 | 0.8609(30) | |
オクチル酸ビニル |
CH3(CH2)3(C2H5)CHCOO-CH=CH2 |
94-04-2 | -70 | 65/15 | 65.0 | 0.8728(20) | |
桂皮酸ビニル | C6H5CH=CHCOO-CH=CH2 | 3098-92-8 | -28 | 125/7 | 132 | 1.0715(20) |